桃金
大学生になってから少しでもオシャレというものに近づけるように美容院に通い続けている。
大前提として僕にはオシャレというものが全然わからない。
しかし周りよりは小汚い自覚があり、高校生までの醜い自分を払拭し上手いこと人間関係が運ぶための手段として以前より気を付けるようになったのである。
気を付けようとなったところで内面は醜い高校生時代と変わらないので、基本はずっと縮こまってる。
僕の担当をしているのはピンクゴールド色の髪をした女の美容師さん。
19年生きてきてそんな人種とは今まで喋ったことがないし見たこともない。
髪を染めている時点で自分の中で話すハードルは上がるのに、ピンクゴールドだし、女性だし。僕の苦手レベルでいうとかなり高い方である。
美容師さんは「今日はどんな髪型にされます?」と聞いてくるが正直わからない。勝手に切ってほしい。
中学高校としっかり校則を守ってきたので、今更「色染めてください」や「パーマかけてください」「思いっきり刈り上げで」「ツーブロックお願いします」だなんて言える勇気がない。
高校までは床屋で「二か月ぐらいで今の長さになるように」とか言っていた。これもこれで曖昧である。
さらに自分を少し変えたいとは思っているが、周りから「あいつ少し変わろうとしてるなー」と思われるのはなんか恥ずかしい。
母や兄はそういうところをかなりイジってくる。
母に至っては、僕が小さい頃から「髪を染めたら家を出ろ」とか言ってくる。これはなんか違う気がする。
ただしこれで同じように美容院で「二か月ぐらいで今の長さになるように」と言ったら何の意味もない。
覚悟を決めた僕はピンクゴールドの髪をした美容師さんに言った。
「ツーブロックお願いします。」
ついに言った。これはかなりの成長である。高校生までの僕とは違う。
僕の中である達成感が駆け巡り、幸せな気分になった。
その後美容師さんがツーブロックにするかかなり悩んでいた自分を見かねてか、
「軽めの(ツーブロックに)にしますか?」
と聞いてきた。僕はすぐに
「はい。お願いします。」と答えた。
初めてのツーブロックは普通だったし、髪を切られているときの会話の時間は微妙な空気だったし、マッサージは絶妙にツボを外してきて不快だったけど、こちらからは何も言い出せなかった。だってピンクゴールドだし。
そしてお会計。次回の予約を取り付けた後美容師は言った。
「4750円です。」
僕は経験をお金で買ったのだ。